地に足の着いた調査とは何かを学ぶことが出来る調査本の古典

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第二次世界大戦中、陸軍航空本部に所属していた筆者が航空作戦の情報収集と解析を行っていた経験を吐露するところから本書は始まります。
敵機の来襲機数の変化を分析し、来襲の時期や規模の予測などを解析していたそうです。時には、捕虜から得られた情報で、予測の精度を確認することもあったとのこと。敵機の来襲基数の変化が定量データなら、後者の捕虜からの情報は定性データです。
こうした解析結果を踏まえて、防空計画が立てられていたということですから、解析結果が持つ役割の大きさと言ったら想像に難くありません。

著者の林 知己夫氏の人生は同時に日本の社会調査の歴史でもあったと思います。このようなバックグラウンドを持つ著者であるからこそ、社会調査に真摯に取り組む筆者の姿勢が行間から伝わってきます。
誰でもとりあえず調査が出来てしまう現代において、そのルーツを知ることは決して時代への逆行ではなく、むしろこれからの調査が真の調査であり続けるために必要なプロセスだと思います。

幸いなことに私は、この業界のキャリアの前半で、本書で語られているような調査の世界に一時的に身を置くことができました。それは、ときには国が実施する世 論調査であったり、マーケティングリサーチでも住民基本台帳を使った標本調査などなど。あるときは、抽出員として市役所や区役所で住民帳の閲覧もしました し、調査員として訪問留め置き調査を経験しました。思えば、かつては標本の抽出法や解析方法についてもっと熱く語られていたような気もします。
そんな話も今では遠い昔話のようになってしまいましたが、今でも私の調査に対するスタンスの基本になっていると思います。そのことにこれまで気付いていませんでしたが、本書を読み終えたとき、そう思えました。

2011-08-03 | Posted in ブックレビューNo Comments » 

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