モバイルリサーチの実際 – RESEARCH WORLD No.30から

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インターネット調査の登場には、新たなデータコレクション法の登場という枠を超えたインパクトがありました。文字通り新しいマーケットを創出したばかりで はなく、調査の世界を大きく変えたと言っていいと思います。そんなネットリサーチをけん引してきた従来のネットリサーチが、今や「トラディショナル」な手 法と言われる時代となっています。訪問調査や郵送調査、電話調査に代表される従来型の調査が長きにわたり調査手法の定番にあったことを考えると、このス ピード感は業界に携わる職業人としても驚くところです。
裏を返せば、従来のネットリサーチは、定量調査のいち手法としての地位を確立したということでもあると思います。もちろん、代表性やパネルの質など議論の余地が依然としてあるのですが、これはネットリサーチに限らず、標本調査にはつきものの命題と言ってもいいでしょう。
携帯電話を使ったリサーチは、従来のリサーチが登場してほどなく、各社が取り組んでいましたが、いわゆる「ガラケー」主流の時代は、素人でもその限界は分かるほど明らかであり、決してネットリサーチに取って代われるものではありませんでした。

時代は変わり、スマートフォンの急速なシェア拡大により、停滞気味だったモバイル調査が存在感を強くしています。ESOMARの隔月誌「RESEARCH WORLD」の10月号でモバイル調査を取り上げた記事がいくつかありましたので、ちょっと紹介したいと思います。
J.D.Power AssociatesのGina Pingitore氏とDan Seldin氏の両人が寄せた記事は、「FIVE THINGS YOU SHOULD KNOW ABOUT MOBILE DATA COLLECTION」と題して、携帯端末を使ったデータ収集を行う上で留意すべき5つの事柄を挙げています。

1.モバイルパネルと従来のネットパネルの違い
大 手ネットリサーチ会社が2011年に実施した600,000名のパネルを対象にした調査から、ネットパネルと言えども、母集団となるパネルと、その内モバ イル調査への参加意向のあるパネルでは、基本属性に違いが見られたとのこと。例えば、通常のネットパネルよりも「年齢層が低い」「フルタイム勤務者が多 い」「高所得者が多い」など。

2.モバイル調査の回答率
パソコンからのアクセスを前提とした 「従来のネット調査」、携帯端末の画面上で回答する「モバイル調査」、与えられたテーマに対してショートメッセージで回答を返す「SMS調査」の3手法の 回答率を比較したところ、モバイル調査が最も低く39%、次いで従来型ネット調査が45%、SMSが60%だった。モバイル調査の回答率が低い理由として 「回線の遅さ」と「画面の小ささ」が考えられ、逆にこれらの改善が回答率アップにつながるとの見解を寄せています。もうひとつの要因が「接続料金」。定額 制ならともかく、従量課金では、謝礼よりも接続料金の高かったなんてことが起きてしまう。

3.モバイル調査と従来型ネット調査のデータ
モバイル調査で得られたデータには、マトリックスで発生するタテ一列すべて同じコードのような回答が従来型ネット調査に比べ少ない。モバイルの場合は、質問項目を一つずつ表示するため、単一コードへの回答が少なくなると考えられる。

4.調査時間
こ れは意外な結果が示されていました。調査時間の長さは、コストやクオリティにダイレクトに関係してくる重要な指標です。『果たして、対象者はどのレベルの 質問数に回答できるのか』この問いに答えるために、何と160項目もの質問を用意して、ドロップアウト(途中棄権)する割合を従来型ネット調査、モバイル 調査、SMS調査の3手法について比較検証しています。
これによると、SMSの回答者は20項目あたりからドロップアウトする人が逓増するのに対 して、意外にもモバイルの回答者のおよそ80%は最後まで回答しているのです。これについては、と一度回答を始めたパネルは、たとえ質問数が多くても最後 までモチベーションを維持できるという見解です。ちなみに、従来型ネットリサーチでは、90%の回答者が最後まで回答していました。

5.携帯端末の位置情報機能
最 後に、携帯端末の位置情報機能の利用について触れています。この機能を使って、回答者がどこで調査にアクセスして回答しているか分析が可能になるというも のです。自宅や職場、スポーツジムなど、回答している場所によるデータの差異を検証したり、回答する場所に合わせた調査の設計が可能になるといった具合。 ただし、これについてはプライバシー保護の観点からも議論が必要と締めくくっています。

パネルの母数の問題など、まだまだ汎用化では課題 があるものの、従来のネット調査、あるいは伝統的手法にはリーチがなかった分野やよりタイムリーなデータ収集へのニーズ対応など、モバイル調査はオンライ ンを介したデータコレクション法として、存在感を強めていくものだと思います。携帯端末を使った調査については、ESOMARや各方面のMR関連コミュニ ティなどで積極的に取り上げていますので、興味深い情報がありましたら、この場でご紹介させていただきます。

2011-11-11 | Posted in リサーチNo Comments » 

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