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日本標準産業分類に「市場調査・世論調査・社会調査業」が追加

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先日、調査の企画をするために日本標準産業分類を調べていたところ、小さな発見がありました。

平成25年10月の改定(平成26年4月1日施行)で「大分類G-情報通信業」に「市場調査・世論調査・社会調査業」が独立して新設されていたのです。

これまで私達の業界は「その他の情報処理・提供サービス業」に含まれていたのですが、めでたく独立したカテゴリーとして登録されたというわけです。

業務上はほとんど影響はないのですが、この業界が少なくとも独立したカテゴリーを設ける必要が生じるレベルの地位を日本において確立できたことの現れと言えそうです。

世界で最も大きな市場調査の国際機関であるESOMARのデータなどを見ると、日本は市場調査の売上が少なく、アメリカの5分の1にとどまります。

つまり、先進国の割に企業が市場調査にあまりお金を使わないのですが、もしかするとこんな状況も変わってきているのかもしれません。

市場調査のプレゼンスの向上は、JMRAでも過去のカンファレンスのテーマにしたほどの課題ですので、その成果が日本標準産業分類での独立カテゴリーの追加という形で現れたのだとしたら、業界にとってはうれしいニュースですね。

2014-07-14 | Posted in Blog, リサーチNo Comments » 

 

East and West : 和を以て貴しとなす?- 1/2

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ESOMAR発行の機関誌「RESEARCH WORLD」をペラペラとめくっていたら、興味深い記事がありました。
ちょっと長くなりますので、2回に分けてご紹介させていただきます。

それは、ミシガン大学教授のRichard Nisbett氏による「All in the mind」というタイトルの記事です。
ざっくりですが、記事のメッセージは「グローバル化が進んだとは言え、西洋人と東洋人では、考え方が違うので、その違いにきちんと配慮したアプローチの仕方をしましょう」というものです。
「そんなこと知っています!」とツッコミが入りそうですが、記事の中で紹介されていた事例がなかなか興味深かったのです。

記事としては、西洋人と東洋人との違いが主旨ですが、東洋人の特徴を示す例として、日本人の事例が多く紹介されていたのも日本人としては面白かったです。
例えば、こんな実験結果が紹介されていました。日本人とアメリカ人の被験者に、水槽の様子を20秒間見てもらい、記憶に残っていることを説明してもらったところ、日本人が水槽の中全体の様子を説明したのに対し、アメリカ人は水槽の中で最も目立っていたものを説明する傾向があったとのことです。

日本人は「水槽の中には水が流れていて、水の色は緑で、水槽の底には岩や貝があり、3匹の大きな魚が泳いでいました」と説明したのに対し、アメリカ人は「大きな魚が右方向に三匹泳いでいて、腹の部分に大きなストライプがあり、底には岩と貝がありました」と説明したそうです。さらに、日本人はアメリカ人に比べて、岩や貝など水槽の中を構成する要素や「貝の隣に藻があった」など互いの要素どうしの関係性を言及した人が多かったとのことです。

筆者は、この例を引用して、東洋人は自分と周囲の人の「関係性」の中で自分を捉えるのに対し、西洋人は自分がどうであるか、つまり「個」として捉える傾向があると分析しています。このこと自体は、特に目新しい発見ではないかもしれませんが、このような実験にも民族の特性が表れてくるというのは興味深いですね。

そこで気づいたことがあります。この実験の日本人とアメリカ人の説明の仕方って、日本人とアメリカ人の文章の書き方や話し方の文脈に似ているなと思ったのです。
日本人は、物事を説明する際に、まず状況を説明し、最後に結論を持ってくる傾向がありますが、英語圏では最初に結論を持ってくるというあれです。

筆者は、こうした事例から、「社会」や「個人」に対する東西の意識の違いがビジネスにおいてどんな意味をなすかを説明しています。
例えば、広告や口コミの影響力について、アジア人はそこから彼らを取り巻く人や環境、他者との同一性をより意識するのに対して、西洋人は自分なりの論理や価値観に基づいた個をより意識する傾向があると分析しています。

その顕著な例として、東西で異なるアプローチをしたサムスンの広告を紹介しています。
西洋では「サムスンの製品を所有することで、こんな自分になれますよ」「あなたの個性にサムスンの製品はマッチしますよ」というメッセージを発したのに対し、アジアではピクニックをしているふたつの家族を登場させた上で「サムスンは、もう一つの家族です」とアピールしたそうです。

今日はここまで。次回は、社会的経済地位(SES)との関連性についての分析についてご紹介します。

2014-06-12 | Posted in Blog, リサーチNo Comments » 

 

ESOMAR Best of Japan – 2014

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5月15日(木)にGMOリサーチさんのオフィスで開催された「ESOMAR Best of Japan – 2014」に出席してきました。

毎回、JMRAのイベントとは違ったESOMARらしい視点のお題目が用意されていますが、中でも興味深かったのは「Projecting for Success」というクライアント側の3名による発表です。

「企画」「実施」「報告」という調査のフェーズ別に、各プレゼンターから、よりよい調査に向けてクライアント側とリサーチ会社にできることの提案が実例を交えてなされました。既に、JMRA発行の機関誌「マーケティングリサーチャー No.123」で同様の議論が同じメンバーでされていたのですが、その続編的な感じで、より具体的で率直な内容でした。

大きく2つのメッセージがありました。

ひとつは、従来の手法やアプローチに固執するのではなく、新しいことを積極的に提案したり、同じことを繰り返さしたりしないという姿勢が求められていること。実際にグルインで用いた手法などを例に成功事例が示されました。

ふたつ目は、「報告」のフェーズにおいて、分析やレポーティングはインサイトまで示して初めてクライアントが期待するアウトプットになり得るということ。これは、もはやリサーチ業界にとっての永遠のテーマと言ってもいいと思います。

ともすれば、私たちリサーチャーは、従来型の方法を最も有効な方法(リスクの少ないと言い換えることもできるかもしれない)と信じていたり、あるいは調査から得られたデータやアウトプットの範疇を超えた提案をすることに躊躇したりしていたかもしれません。

今回の発表を拝聴し、新しい試みやリサーチャーとしての経験や視点をクライアントに提案する勇気と積極的な態度が求められていることを再認識したと同時に、クライアントと同じ方向を向くことができたのではないかと思います。

2014-05-26 | Posted in Blog, リサーチNo Comments » 

 

電話調査の現場:その2

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電話調査のお話の続きです。

大変な電話調査も、少しづつ回収を積み重ねていけば、いずれ目標数を達成することができます。さて、一体どのくらいの時間をかければ貴重な一票を獲得することができるのでしょうか。私たちは、1時間あたりの完了率というものをひとつの目安とします。現場ではCPHと呼んでいます。Complete per hourの頭文字を取ったものですが、これを見積や進捗管理の指標とします。例えば、一般的なB2Bの電話調査であれば、CPH=0.3といったところでしょうか。つまり、1時間で0.3票の有効票を獲得できる計算です。ということは、1件の有効票を獲得するために3.3時間かかるという訳です。実際には、案内状を送付してから、少し時間を空けて再コールなどということもありますので、ひたすら3時間電話をかけ続けるわけではありませんが、それでも大変な作業です。

大変な作業ゆえに、目標とする回収数を達成でいたときの喜びはひとしおです。それこそ、最後のインタビューが終了したときには、担当者と調査員から喝采が起きるくらいです。

2回に分けて電話調査について連載しましたが、いかがでしたでしょうか。
電話調査は、定量調査の手法の中でも、とてもチャレンジングな調査です。それでも、インターネットによる調査が一般的になっている日本とは異なり、欧米では依然として電話調査が定量調査(特にB2B)の定番として定着しています。他の調査手法が軒並みインターネットへとシフトしていく中で、意外にも電話調査は一定のシェアを維持し続けています。
それは、B2B調査の世界では、いわゆる消費者モニターのようにパネル化をしにくいという理由もあると思いますが、一方でデータ収集の方法として対面や聞き取りを理想とする元来の思想に基づいているからだと思います。だからこそ、マーケティングリサーチの歴史が長い欧米で、依然として重宝されているのだと思います。

2013-05-31 | Posted in Blog, リサーチ, リサーチ手法No Comments » 

 

電話調査の現場:その1

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かねてから、電話調査の実際について一度記事を書いておきたいと思っていました。
というのも、現在のブリーズを立ち上げるまでの前職で、長いこと電話調査に関わっており、その現場の厳しさをこれでもかと味わっていたからです。
前職では電話調査事業の起ち上げから関わり、およそ10年にわたって様々な調査を経験させていただきました。ちなみに、ここでいう電話調査とは定量調査の主に一般企業や各種団体を対象とした調査です。

電話調査というと、選挙前や政権が変わる前後に新聞などで発表されるものがお馴染みですが、私が関わってきた調査の多くは、いわゆるB2B(ビジネス・トゥ・ビジネス)調査です。この世界は、海外からの依頼を中心にニーズが多い一方、運営の難しさもあり、国内では専門的に行っている会社が少ない分野です。
今回は少し長くなりますので、2回に分けてご紹介したいと思います。調査を依頼する側、そして調査を実施する側の両方の立場の方の参考になれば幸いです。

一般企業に電話をかけ、調査条件に該当する担当者が所属していると思われる部署につないでもらい、調査への依頼をする。
こ れが、いかに大変な労力を要するかは、調査に関わりのない方でも想像に難くないと思います。大手の新聞社など看板が付いているならまだしも、聞いたことも ないような市場調査会社からの電話であれば、なおさらです。大抵の場合、ふたつ返事で承諾してくれるということはありません。実際にアンケートに回答して もらうまでに、いくつかのステップを踏むことになります。対象部署につないでもらい、依頼状を送付した上で、協力の可否を尋ねるといった具合です。
ところが、せっかく協力を取り付けても、スクリーニングで条件から外れてしまい、ご協力いただけないというケースもあります。ここで、社内の別の適任者を紹介していただければ良いのですが、それは幸運なケースです。
電話調査の難しいところは、調査への協力を取り付けるリクルートの部分にあります。電話調査の難しさの90%が、ここにあると言っても決して言い過ぎではありません。
担 当者と調査員が最も心血を注ぐ部分です。担当者には、調査員からよく話を聞きながら、クライアントに報告する一方、ひとつひとつ問題を解決していくきめ細 かい実査管理能力が求められます。また、調査員は、何度も門前払いを受けながら、対象企業の担当者まで取りつないでもらい、調査を依頼する粘り強さと高度 なコミュニケーション能力が求められます。

例えば、海外からの依頼の場合は、どうしても質問文が「翻訳っぽく」なりがちです。電話調査は、調査員が画面上に表示される質問文と選択肢を読み上げるのですが、これが「翻訳っぽい」と、それだけで対象者の方は怪訝な態度に変わってしまいます。
電 話調査の場合、読み上げる文章をスクリプトと呼んでいますが、これを勝手な判断で変えることはできません。そこで、調査員からのフィードバックを参考に、 クライアントに修正を提案することになります。リアルタイムでこうしたやり取りを重ねることで、精度を上げていきます。

また、対象者の所 属部門や役職が海外と一致しないということもあります。これは、もうほとんど毎回の課題となります。英語の役職名は、たいていの場合、日本ではバッチリ一 致する役職名がありません。そこで、職務内容や責任の範疇から、該当する人を探し当てるといったアプローチを取ったりします。

特に母数となるサンプルが少ない場合、これは大変です。サンプルが豊富にあれば、いずれは依頼にこぎつけることができます。数打ちゃ当たるの原理です。
海外では必要なサンプル数の10倍程度のサンプルを用意すれば設定数をクリアできると言われていますが、日本国内の場合は、経験上15~20倍のサンプルが必要になります。つまり、1件の有効回収を得るために15~20社に電話をかける必要があるのです。
例 えば、対象とする母数が少なく、全数を抽出しても設定数の7~8倍程度しかサンプルを用意できないケースもあります。これをいつものやり方でやれば、早晩 サンプルは尽きてしまいます。そこで、できるだけサンプルの消耗を減らす方法を考えます。実際には、進めながら、効率よく回収できる方法を模索していく感 じに近いです。非常にストレスのかかる作業となります。

次回は、電話調査の管理の具体的な話をご紹介したいと思います。

2013-02-12 | Posted in Blog, リサーチ手法No Comments » 

 

マーケティング・リサーチ プロになるための7つのヒント

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マーケティングリサーチの方法論には、同じ分析手法でも、大学の先生など研究者とリサーチの現場では好まれる手法が異なったり、あるいはアウトプットを導 き出すまでの過程で複数の解法が存在し、それぞれが長所と短所を併せ持っていたりというようなことが往々にしてあります。もうこの分析なら絶対的にこれし かないというような手法があれば話は楽なのですが、そこのところは経験則や慣習で決まったりするのもあるので一筋縄では行きません。マーケティングリサー チの世界では、そんなことが珍しくないのですが、この本は中でも比較的メジャーな分析や調査設計にフォーカスして、ヒントを与えてくれます。あくまでも、 ヒントであり、解ではありません。つまり解は存在しないのだけど、困ったときの道しるべが欲しくなるような課題を取り上げてくれています。筆者も冒頭で書 いているように、マーケティングリサーチ中級以上向けの内容ですが、基礎を理解し、実務経験のあるリサーチャーには、とても助けになる本だと思います。同 じ著者による多変量解析のバイブル的著書「入門 多変量解析の実際」と併せて持てば、効果も倍増です。

2013-01-13 | Posted in Blog, ブックレビューNo Comments »